「食の節約志向」を憂える

先日NHKのニュースで、20~30歳代の若い世代を中心に「食の節約志向」が高まっていることが報道されました。下がその内容です。

9月22日 NHKニュース
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厳しい雇用状況が続くなか、20代と30代を中心に、食に対する節約志向が 強まっているという調査結果がまとまりました。  この調査は、日本政策金融公庫がことし7月、インターネットを通じて全国の20代から70代までの男女合わせて2000人を対象に行いました。  それによりますと、食に対する志向を選択肢の中から2つを選ぶよう尋ねたところ、最も多かったのは、44.9%を占めた「健康志向」でしたが、前回、半年前の調査より0.8ポイント減少しました。 これに対して、2位の「経済性志向」は39.7%で、前回より5.3ポイント増加しました。年代別では、20代で57.3%、30代で52.2%と、ともに調査を始めた平成20年以来、初めて50%を超えて、若い世代ほど食に対する節約志向が強まっていることが伺えます。



「食に対する節約」すなわち食費を節約するという意味なのでしょうが、若者が行っている節約行動とは、例えば価格の高い牛肉の代わりに豚肉や鶏肉を使い、野菜類も旬で安価なものを中心に購入し、栄養価や満足感を損なわないように工夫しながら料理をするといったものではなく、男性なら「安くて簡単に食べられ、お腹にたまる」ということを基準にした食べ方で、具体的にはカップラーメンや菓子パンのみの食事とか、500円以内で食べられる大盛り牛丼とか、300円台で食べられるファーストフードの○○セットとかいったものが中心の食生活で、女性の場合は節約とダイエット志向が相乗して、お菓子のつまみ食いを食事代わりにしているような光景をイメージしてしまいます。
 さらに10月8日の朝日新聞では、文部科学省が7日に発表した「体力・運動能力調査」より、運動をしない20代前半の体力は、ほぼ毎日運動する40代後半レベルで、特に運動をしない20~30代女性が増加している傾向があることを報道しています。
 成長が止まった人間の体は、20歳代から徐々に老化に転じていきますが、食生活や運動などの生活習慣に対して何の配慮もしなければ、加速度がつくように体の衰えが進行していくことは想像に難くありません。男性の場合、30歳代になると急激に肥満者(BMI≧25)の割合が高くなりますが、それは年齢と共に基礎代謝が低下していることを考慮せず、20歳代の頃と同じような食べ方をしたり、食べた分を運動で消費したりする努力をしない結果起こっている現象です。このような状況が長期に及ぶことによって、インスリンが働きにくい状態(インスリン抵抗性)に陥り、糖尿病になるわけです。日本では、この40年間に糖尿病患者は50倍に増加し、40歳以上では10人に1人が糖尿病といわれていますが、上記のような報道の内容から察して、今後この状況にさらに拍車がかかるような予感がします。一方女性の場合は、若い女性を中心にやせの者(BMI<18.5)の増加が指摘され、以前このブログでも骨粗しょう症について詳しい記事を掲載しましたが、現在の20~30歳代女性は体重が軽いだけでなく、骨の健康に効果的な運動をしない人が増加しているということなので、これらの女性達の中から50歳代後半で骨粗しょう症に陥る人が、少なからず出てくることも予想できます。
 若い人たちは、体力の衰えを感じたり、体の不調を感じたりすることがあまりないので、その状態が以後も当たり前に継続するものと錯覚しがちです。若くて健康な状態をできるだけ維持しようとする努力が必要なのに、食べることへの関心や知識,技術が乏しく、さらに生活習慣病に対する認識や恐れがあまりにもなさすぎる感じがします。でもそれは、家庭・学校・社会すべての場面で、食や健康に関する教育が十分に行われていないことの現れなのでしょう。
政府もこうした国民の現状が将来の社会保障費を増大させるおそれがあることから、平成17年に「食育基本法」を制定し、食育を知育,徳育および体育の基礎となるべきものと位置づけると明記しました。この法律については、国が「食べる」という極めて個人的な事柄に介入するとはいかがなものか、という反対論もありましたが、個人の幸福度に対してマイナスに作用するものではないので、私はこのことについて異論はありません。その後「食育」という言葉も定着してきましたが、学校教育の場面では具体的な改革が乏しく、思ったほどに効果は上がっていない感じがします。例えば高等学校では、教科指導として「食育」に関与するのは家庭科ですが、比較的学力の高い生徒が集まるいわゆる進学校では、受験教科でない家庭科の存在感は薄く、カリキュラムの中で家庭科に与えられる単位数は3年間にわずか2単位で、食生活領域の指導にあてることができるのはその時間数の1/3程度です。家庭科の中に食に関する新たな必修科目を設定するなど、思い切った改革が必要だと思います。また、先日たまたま某国立大医学部の医学科と看護科のカリキュラムを見ましたところ、あらゆる疾病に栄養が関与しているにもかかわらず、栄養学が基礎教育科目に設定されていないことに驚きました。
法律というお題目だけではなかなか事態は改善しません。農水省,厚労省,文科省など、関係する省庁が連携して検討を進め、学校や社会に対して具体的な方策を打ちだしていくことが急務だと、切に思います。