がん予防のための食生活指針

今回は、前回の国際的ながんのリスク判定を踏まえて、それぞれどのような食に関する指針が示されているか、また日本人の実情に沿った食生活指針はどのような内容になるのかについてまとめてみましょう。

■ 世界保健機関(WHO)による食事指針
① 成人期での体重維持
② 定期的な運動の継続
③ 飲酒はしない
④ 中国式塩蔵魚の摂取や塩蔵食品・食塩の摂取を控えめにする
⑤ アフラトキシンの摂取を最小限にする
* アフラトキシン = 保存状態の悪いトウモロコシやナッツ等に混入しているカビ毒
⑥ 野菜・果物を少なくとも1日400g摂る
⑦ ソーセージやサラミなどの加工肉の摂取を控える
⑧ 飲食物を熱い状態で摂らない


■ 世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による食事指針
 ① 肥満度について : 正常な体重の範囲でできるだけやせる
 ② 身体活動について : 日常生活の中で活動的になる
 ③ 体重を増やす飲食物について : 高カロリー食品や甘い飲み物を制限する
 ④ 植物性の食事について : 植物からできた食品を中心に摂る
 ⑤ 動物性の食事について : 赤肉(牛,豚,羊など)を制限(1週間に500gを超えないように)し、
                    加工肉(ソーセージ, サラミ,ベーコン,ハムなど)を避ける
 ⑥ アルコール飲料について : 飲酒を制限する
 ⑦ 保存・加工・調理について : 塩を制限し、カビのはえた穀物や豆類を避ける
 ⑧ サプリメントについて : 食事だけで必要な栄養素を摂れるようにする
 ⑨ 授乳期の女性に : 母は授乳し、子には母乳を飲ませる
 ⑩ がんを患った人に : がん予防のための食生活のアドバイスに従う


 以上が国際的ながん予防のための食事指針の内容で、マーカーをした部分は両者に共通している内容ですが、日本人の生活の実態に照らしてみますと、すべてが当てはまっているとはいえない感じがしますね。例えば、中国式塩蔵魚などは日本人にあまり馴染みがあるとはいえませんし、アフラトキシンは食品衛生法によって規制されています。日本人の肥満の状況については、中高年の男性を中心にやや増加の傾向が見られるものの、若年女性にはやせが増加しているなど、米国とはずいぶんと状況が異なります。このような日本人の実情を加味した食生活指針はどのようなものになるのか、国立がん研究センターが示している事柄に基づいて整理してみましょう。

◆日本人のためのがん予防法
 ① バランスの良い食生活に心がける。 (偏食,同じものばかり食べない)
 ② 塩蔵食品(塩辛,漬け物など)や食塩の摂取は最小限にする。

1日あたりの目標量 / 男性9g , 女性7.5g
高塩分食品(塩辛や練りウニなど)の摂取は週一回以内に控える


 ③ 野菜・果物不足にならないようにする。 

目標量 / 1日400g    野菜は小鉢で5皿,果物1皿


 ④ 飲食物を熱い状態で摂らない。
 ⑤ 成人期での体重を適正な範囲に維持する 。 (太りすぎない,やせすぎない)
 ⑥ 節度のある飲酒をする。

1日の上限量 / アルコール量に換算して23g程度
日本酒:1合 , ビール:大瓶1本 , 焼酎・泡盛:1合の2/3 
ウイスキー・ブランデー:ダブル2杯 , ワイン:ボトル1/3程度
* 飲まない人・飲めない人は無理に飲まない


 ⑦ たばこは吸わない。 他人のたばこの煙をできるだけ避ける。
 ⑧ 日常生活を活動的に過ごす。
 ⑨ 肝炎ウイルス感染の有無を知り、感染している場合は治療措置をとる。

 国際的な指針との相違点は、加工肉および赤肉の摂取とアフラトキシンの摂取に関する記述がないかわりに肝炎ウイルス感染についての記述があることで、その他はだいたい同じような内容になっています。
 前回取り上げたリスク判定の内容を見てもわかりますように、今のところ確実にがんのリスクを下げるとされている特定の食品や栄養素はありませんが、すべての指針で共通して推奨しているのは、「野菜や果物を1日に400g摂取」ということです。しかし単純に「野菜や果物」と表記されると、食材や調理の選択肢が限られ、実行が難しく感じられてしまいます。そこで、野菜や果物と同等の効果のある芋類,豆類,海藻類,きのこ類などを加えて食材の種類を増やせば、調理法や献立の幅を広げることもでき、より望ましい食生活の形をつくることができると思います。最近では、コンビニのお総菜やファミレスのメニューにも、「野菜たっぷり」を意識した商品が用意されていますので、中食や外食の際にそうしたものを選ぶのも一つの方法です。
 赤肉・肉の加工品に関しましては、日本人の摂取量は欧米人ほどではないにせよ、近年いわゆる「魚離れ」が指摘され、肉類の消費量が増加しています(半世紀前の日本人の3倍以上食べています)ので、やはりある程度の配慮が必要でしょう。良質なたんぱく質源としては、赤肉のほかに魚類,鶏肉・鶏卵,大豆製品,乳製品などがありますので、これらをローテーションしながら摂ることをおすすめします。
 塩分摂取量を抑えることは、胃がんの予防に有効であるばかりでなく、高血圧症および循環器疾患のリスク低減にもつながります。ところが、1日あたり男性9g,女性7.5gという目標量を達成するのはなかなか難しいもので、味噌汁などの汁物は1日1杯にするくらいでないと達成できません。特にうどんやラーメンなどの麺料理は、1食あたりの食塩相当量がおよそ5.5g程度とされているので、こうしたものを食べてしまうと帳尻を合わせるのがとても難しくなります。せめて汁を飲まないとか、副食にはほとんど塩気のないものを組み合わせるなどの配慮が必要でしょう。
 このようにがん予防策といっても、肝炎ウイルス以外にはこれといって特別な事柄があるわけではなく、他の生活習慣病の予防策と重なることがほとんどです。ただ、それぞれの人にとって当たり前になっている生活習慣について、それを客観的にとらえて問題点を見出し、解消するための努力を継続するということは、なかなか容易にできることではありません。ですが、将来の自分自身や周りの人々の幸せのためにも、「もし私ががんになったら…」という想像力をはたらかせて自分を奮い立たせ、できることから取り組んでみることが大切なのではないでしょうか。