カルシウム利用を阻害するもの(蓚酸について)

食品に含まれる成分には、体内でのカルシウム吸収や代謝に対してマイナスに作用するものもあります。その代表的なもののひとつに、野菜類やイモ類に含まれる蓚酸があります。蓚酸は体内でカルシウムと結合して不溶性の蓚酸カルシウムを生ずるために、カルシウムの吸収と利用を阻害するばかりでなく、排泄する際に尿路に結石を生じさせることが確認されています。
里芋の皮を剥いている時に手がピリピリ痒くなってくるのは、蓚酸カルシウムの結晶が肌を刺激するからなのですが、そのほか普段、私たちが食べている食材の中で、際立って蓚酸含有量が多いのがほうれん草です。私は大学時代に国立栄養研究所(現在の国立健康・栄養研究所)でほうれん草に含まれる蓚酸の測定実験を行ったことがありますが、その量の多さに驚きました。少し古いデータですが、当時測定した蓚酸量を一覧表にしてみましょう。

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このように、ほうれん草は通常食されている野菜類と比較して、蓚酸量が非常に多いことがおわかりいただけると思います。そこで、ほうれん草の蓚酸対策ですが、やはりほうれん草はお湯で茹でて水にさらすことをお勧めします。実験の結果、茹でて水にさらすと、ほうれん草の蓚酸はおよそ60%減少させることができることがわかりました。電子レンジ処理の場合、減少率は30%でしたので、少し面倒でも茹でた方が蓚酸の除去には効果的だといえるでしょう。炒める場合でも、生のものを炒めるのではなく、茹でたものをさっと炒める方がよいですし、生食用として市販されているほうれん草も、通常のほうれん草のおよそ70~80%程度の蓚酸を含んでいますので、あまり生で食べない方がよいかもしれません。もちろん、茹でるとビタミンCや葉酸などの水溶性ビタミンも溶出してしまい、栄養価が下がることは否めませんが、ただ、蓚酸はエグ味成分でもありますので、ある程度除去した方が美味しく食べられるというメリットもあります。
 蓚酸と同じようにカルシウムの吸収を妨げるといわれているものに、穀類や豆類(すなわち種子)に含まれているフィチン酸というリン酸化合物があります。ただ実際に植物組織に含まれているのは、フィチン(フィチン酸のカルシウムまたはマグネシウム塩)で、この状態ではカルシウムと結合して吸収を阻害するような問題は起こりにくいと考えられます。また、玄米や雑穀米などを主食にするような場合は、カルシウムや鉄,亜鉛などの無機質(ミネラル)が豊富な乳製品や魚介類,肉類を一緒に摂ることで、無機質不足を避けることができます。なお、フィチン酸には抗酸化作用や抗ガン作用があるとされ、近年はこうした観点での研究が進められているようです。
 このように、食品には栄養素以外にもさまざまな物質が含まれていて、それらの中には蓚酸のよう人間の体に対してマイナスに作用するものもあるわけですが、栄養素も摂り方によってはカルシウムの吸収や利用を妨げる原因になることがあります。次回はそのような事柄についてまとめてみましょう。