骨の健康を支える栄養素(その1)

骨粗しょう症は、超高齢社会の日本において推計患者数1300万人を超え、特に60歳代の女性の約半数、80歳以上の男性の約半数が骨粗しょう症に罹っていると考えられています。骨粗しょう症で最も困ることは、骨がもろくなることで骨折しやすくなり、特に大腰骨頚部(足の付け根)を骨折すると歩行困難になり、いわゆる「寝たきり」状態になってしまうということです。そうなりますと患者本人のQOL(生活の質)が大きく損なわれるとともに、家族の介護負担や社会保障制度(医療保険や介護保険)の費用負担増など、周囲に与える影響も非常に大きくなります。
骨粗しょう症を引き起こす原因としては、前回のブログで触れた低体重や性別などの個人的因子のほか、運動不足などの生理的因子、骨の形成に影響する栄養的因子、さらに卵巣や胃の切除といった他の疾患や薬物の影響などがあり、このような様々な因子が長期間にわたって複雑に絡まり合って骨に影響を及ぼすことから発症します。このように骨粗しょう症も重大な生活習慣病であるわけですが、がんや糖尿病などに比べると病気への危機感が少し薄いような気がしますし、女性のやせ願望の強さや、やせた女性の増加といった現実を見ますと、もう少し骨粗しょう症への認識を広めた方がよいのではないかとの思いに駆られ、今回は骨の健康に関係する栄養素や食品中の成分についてまとめてみたいと思います。
骨は骨基質であるたんぱく質にリン酸カルシウム,リン酸マグネシウムが沈着して形成されます。建物に例えるなら、コラーゲンが鉄筋でリン酸カルシウムやリン酸マグネシウムがコンクリートといったところでしょうか。よって骨の材料となる栄養素は、たんぱく質とカルシウム・マグネシウム・リン(無機質)ということになります。そしてこれらの栄養素は、骨形成を促進するビタミンD・K・Cなどの作用によって骨になっていきます。骨に必要な栄養素を一覧にしてみましょう。


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この中でカルシウムは、日本人に不足しがちな栄養素として広く認識されていますが、体内では99%のカルシウムが骨や歯に存在し、残り1%は血液などの体液に存在しています。骨は体内でカルシウムの銀行のような役割を担っていて、血液中のカルシウム濃度が低下すると副甲状腺からホルモンが分泌され、骨からカルシウムを溶出させます。カルシウム不足が日常的になりますと、このような現象が継続して起こり、結果として骨粗しょう症に陥るとともに、骨から溶出された過剰なカルシウムが血管や脳あるいは軟骨など、本来カルシウムを必要としないところにまで入り込んでしまいます。このような現象をカルシウムパラドックスといい、血管の細胞内にカルシウムが蓄積すると動脈硬化、脳の場合はアルツハイマー病、軟骨なら変形性関節症,膵臓に起きると糖尿病、腎臓では腎臓結石と、近年では生活習慣病といわれる多くの病気にカルシウム不足が関係しているという説があります。カルシウム不足はやはり怖いですね。
ところで日本人の食事摂取基準(2010年)によりますと、カルシウムの推定平均必要量は30~49歳では男女とも1日あたり550mgで推奨量は650mgとされていますので、成人ならおよそ600mgを目安にすればよいと思います。カルシウムを摂取するのに有効な食品の筆頭はやはり牛乳やヨーグルトでしょう。これらには100gあたり110~120mgカルシウムが含まれていますので、1日に牛乳なら600ml、ヨーグルトなら500g飲食すればという計算になります。しかし普通牛乳の場合、脂肪が一緒に含まれているのでカロリーの過剰が心配であるとか、お腹がごろごろするという症状(乳糖不耐症)が出るので敬遠しているという方もいると思います。もしカロリーが気になるようでしたら低脂肪乳や脱脂乳(スキムミルク)を選ぶことも可能ですし、乳糖不耐症の方でも飲めるように乳糖を除去したものも販売されています。このように成分を調整した牛乳を加工乳といいますが、加工乳にはこのほかカルシウムや鉄が添加されているなどの様々なタイプのものがありますので、健康状態に合わせて選ぶと良いと思います。ちなみに私は乳糖不耐症なので、メグミルクで製造している「おなかにやさしく」という製品を購入しています。一方ヨーグルトは発酵食品なので、乳酸菌による整腸効果も期待できて良いのですが、プレーンは酸味が強くて食べにくく、砂糖を入れるとやはりカロリーが気になるという場合でしたら、合成甘味料で甘味を付けたものなどを利用すると良いと思います。さらに牛乳やヨーグルトは、調理をせずにそのまま飲食できる手軽さもあるので、毎日牛乳200mlもしくはヨーグルト200gくらいは最低でも摂ることをお勧めします。近年牛乳をタブー視する言論もあるようですが、この程度の量でしたら支障が出るとは思えません。
牛乳以外にカルシウムの給源として積極的に摂りたい食品は、骨ごと食べる小魚や大豆の製品です。煮干しやシラス干しのような小魚の場合、内臓ごと食べるため、若干コレステロールやプリン体が心配ということがあるかもしれませんが、これらは一度に食べる量が多くないので、通常あまり神経質になる必要はないと思います。大豆や大豆製品は、良質のたんぱく質源であるとともに、イソフラボンという女性ホルモン様作用のある物質が含まれていて、骨からのカルシウム溶出を抑える働きがあることから、特に閉経期以降の女性は毎日の食事に取り入れることをお勧めします。数ある大豆製品の中でも納豆は、皮(食物繊維)ごと食べるので整腸作用があり、特有のネバネバに含まれているポリグルタミン酸という物質はカルシウムの吸収を促進する効果があるそうです。
カルシウム不足にならないためには、これらの食品を毎日の食事の中で組み合わせながら、根気よく摂っていくことが望ましいわけですが、食事だけでは自信がないという場合は、特定保健用食品などを利用するというのも一つの方法ではあります。ただし、カルシウムは便を堅くする作用があるので、便秘薬(酸化マグネシウム製剤)などと一緒に摂りますと、ミルクアルカリ症候群に陥ることにもなりかねないので注意が必要です。
今回は骨を支える栄養素としてカルシウムのことを中心に書きましたが、次回はビタミンDなどほかの栄養素についてまとめてみたいと思います。